2020年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲 打楽器パート徹底解説 課題曲Ⅱ 龍潭譚 佐藤 信人
解説:平子ひさえ
明治後期から昭和初期に活躍した小説家泉鏡花の作品「龍潭譚」。母を亡くした幼子が、美しく咲き続く紅色のツツジの丘を走り抜け、異界へと迷い込み、不思議な旅をする神隠し譚。そこで出会う美しい女性…そして不思議な出来事…作曲者佐藤信人氏がスコアにも書かれていますが、幻想、怪異、妖艶の薫り漂う泉鏡花の世界に触れ、龍潭譚をよく読んで主人公の心情やいろいろな場面を想像し、イメージをしっかり持って音に表現されるとよいでしょう。
冒頭、短二度でぶつかるGlo.とVib.ですが、タイミングとバランスが大事です。どちらかが大きくても小さくてもこの響きは成り立ちません。"二人で一つ" の感覚でバランス良く作ってみてください。それにはブレスを揃えて「息」と「腕」のスピードを合わせることがとても大事です。そして、音色を大事にしながら響きを作られるとよいでしょう。
次に、3小節目にでてくるFinger Cym.ですが、A.Saxが奏でる優しいメロディに美しく優しく添えてあげましょう。
10からは音楽が少し前に動き出しますので、Glo. & Vib.は木管のメロディの流れを感じながら、テンポに気をつけて演奏してください。幻想的な響きを出せるように、音色とバランスに気をつけるとよいでしょう。そして、そこに加わるS.Bellは、次への和声の移りに彩りを与えてみてください。
20小節目のS.Cym.のロールのクレッシェンドは、ただ大きくなるだけでなく、音に緊張感を持たせるためにスピードをつけていくとよいでしょう。音の切り方にも気をつけてください。そこに続くF.Cym.のsoloは、突然何かを見た瞬間を表すようなとても大事な音なので、音色に輝きを持たせて場面の変化を示してあげるとよいでしょう。
25からはTimp.と2T-tomsのリズムのニュアンスを明確に表現しながら、しっかりとテンポを示してあげることが大事です。リズムを安定させ、全体の柱になるとよいでしょう。リズムがすべったり流れてしまわないように気をつけてください。また逆に重すぎて流れを止めてしまわないよう、このリズムの持つニュアンスと音楽の流れを大切にされるとよいでしょう。
29小節目からはB.D.も加わりますが、打楽器群のダイナミクスはppです。他のパートはp、そして低めの音域から始まるTbのメロディはmpですので、全体から捉えたバランスに気をつけてください。また、この場面の雰囲気を感じれば、2T-tomsのチューニングはあまり高すぎないほうがよいでしょう。
47からは、Timp., 2T-toms., Xylo.の16分音符のリズムのニュアンスを明確にスムーズに、そして勢いよくクリアに表現できるとよいでしょう。出遅れたり、音符がすべったりしないように気をつけてください。
70からのVib.ですが、softマレットでppであっても、しっかり音を鳴らし、フレーズ感と流れを大切にしながら弾いてください。それを支えるB.D.のロールは、打音がでないように"打面の真ん中を外したところ"でpppの響きを作ってみてください。
76からのTimp.とB.D.の八分音符、そしてTriビーターを使って楽器の端の方を叩くTam-tamで、より緊張感が漂うよう効果的に演奏してください。
82小節からの八分音符の刻みは、ppであってもはっきりとした音色のほうがよいので、今度は"打面の真ん中近く"で音を短めに叩きますが、左手で響きや余韻の長さを調整しながら低音楽器との音のニュアンスを揃えるとよいでしょう。この曲のクライマックスである86のCrash Cym.は、非常に大事な一発です。力強く勢いよく華やかな中にも切なさがあるような、心に響く深い音をぜひ表現してみてください。
曲の最初から最後まで、打楽器の役割がとても重要な作品です。特にGlo.とVib.に関しては音色とバランスが課題となりますが、それにはマレットの選択もとても重要です。最後の仕上がりに彩りを添えてあげられるのが打楽器の役割でもありますので、ぜひ素敵な音色で泉鏡花の世界を描いてみてください。