2020年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲 打楽器パート徹底解説
【課題曲Ⅳ】吹奏楽のための「エール・マーチ」 作曲 宮下 秀樹
解説:大垣内 英伸
この曲の特徴は、落ち着いたテンポ、あまり裏拍を強調しないリズム、拍毎に変わる和音、そして、柔らかなメロディ等だと思います。打楽器パートが、その特徴を最大限に発揮できるように演奏しましょう。
冒頭に音がある場合は、どの楽器でも緊張します。特にCym.は、バンド全体の印象を決めるので、ある一定時間演奏をしないでも、きれいな音が出せるような練習をしておきましょう。S.D.のロール(32分音符表記)後の音の処理方法は曖昧で演奏者に任されることが多いのですが、この曲の場合は楽譜に記載された通りです。タイがかかっていない時は、普段通りに演奏しますが、ロールの後の音にタイがかかっている時は注意が必要です。
例えば5小節目の2拍目の裏の音のS.D.は、タイがロールの次の音にかかっていないので、ロールは2拍目付近で終わり2拍目の裏を演奏します。7小節目の頭の音の場合、タイがロールの次の音にかかっているので、強くは演奏しません。この曲では、「タイのかかった音は終わりの音」という感じです。管楽器のタイの扱いと同じで「ロールという奏法で音を伸ばしている表記」と考えてください。また、ロールといっても32分音符表記なのでいわゆるオープンロールで演奏も大歓迎です。
Aからは主に木管を主体とした演奏です。S.D.は、柔らかな音色で演奏しましょう。和音進行が拍毎に変わりますのでS.D.は「バンドを引っ張る」というよりも、テンポを安定させるような演奏をしましょう。
BからはB.D.が入ります。これも全体を引っ張るリズム、というよりは安定した響きが欲しいです。
DからのTri.のミュートとオープンの演奏位置は底辺ではなく、楽器の上の辺の場所が良いでしょう。71小節目からのS.D.は、管楽器の16分音符が早くなる可能性がある場所なので管楽器と一緒に練習をしましょう。
Fの直前のCym.ソロは遅れないように注意。記譜通り、音を止める必要はありません。
Gの1小節目と3小節目のパターンのCym.は1小節目がテヌート、3小節目はB.D.が無い分、少し早いストロークで音の違いを表現しましょう(直後に、同じ場面があります)。119小節目からの「躍動感を持って、でも甚だしくなく」はS.D.奏者の腕の見せ所です。推進力がありながら、上品な音色で、フレーズ感のある演奏を目指してください。ここのロール(32分音符)は、オープンでできれば最高です。強弱記号はPですが、リムに近すぎると、音も貧弱になるので演奏場所に注意してください。Tri.も聴かせ所です。こういった場面で極端に細いビーターを使うと良い音がしません。中くらいの太さで挑戦してみてください。ホルダーの紐(テグス)も研究してみましょう。叩く位置はTri.の底辺で、透き通るような音で演奏しましょう。131小節目のS.D.の3連符は穏やかに歌うような演奏を心がけてください。
Iの1小節前は、S.D.とB.D.は、共に早くなりがちですので気をつけましょう。143小節目からのB.D.は大変重要です。特に8分音符は、急がないようにしましょう。
Jからは、主に木管が歌い上げる場面、打楽器だけが、mfの表記です。そうです。音量やリズムというよりも、響きを提供する場面です。
Kからの打楽器は非常にシンプルな音列です。テンポ感、フレーズ感、何より歌うような演奏を目指してください。ここからのGlo.は軽やかな音色が出せるのであれば、真鍮が良いでしょう。183、184小節のS.D.の装飾音の手順はRLLが良いと思います。
最後にB.D.の左手のミュートを演奏毎に離す奏法を見かけることがあります。理論的には理解できますが、客席で聞いていているとロールのように聞こえています。ミュートしない音も素敵ですし曲によってはミュートしない方が良い場面もあります。しかし、この曲では基本的にはミュートの圧力や場所をその都度調整しながら、左手をヘッドから離さない奏法が良いと思います。また、S.D.のロールの頭に毎度アクセントをつける演奏もよく聞ききますが、ロールは伸ばしている音の表記です。アクセントがある場合以外は、つけないでください。