2019年度 全日本吹奏楽コンクール 課題曲Ⅰ 打楽器パート徹底解説
「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲
解説:川瀬 達也 Tatsuya Kawase
新日本フィルハーモニー交響楽団 首席ティンパニ奏者
この曲の作曲者は打楽器出身だけあって、打楽器パートにもスラーやスタッカート、テヌート等のアーティキュレーションを細かく書き入れてくれています。それぞれの楽器でどのようにしたら書かれているアーティキュレーションが表現出来るかを研究、練習してみて下さい。マレットや腕の重さのかけ方、スピード、アップストロークかダウンストロークか、身体の使い方次第で色々表現出来るはずですよ。大事なことは管楽器や弦楽器と同じように音の長さ、形を想像することです。では曲を細かく見ていきましょう。
冒頭、Triangleにテヌートが付いていますね。柔らかく長い音をイメージしましょう。Triビーターが楽器に当たるスピードが速くなり過ぎないように、そしてガチッと当たらないようにゆったりとしたイメージを持って鳴らしたいですね。S.Cym.はppですが、柔らかい音色で、なおかつ音がすぐに立ち上がるマレットを選びたいですね。入った後に音が膨らまないように気を付けましょう。S.Bellsはディミヌエンドを意識しすぎず、フェルマータに入ってから自然に消えられると良いですね。Glock.にアルペジオが出てきていますが、アルペジオは拍の頭に最初の音(Bb)を合わせるか、最後の音(Ab)を合わせるか、そしてどれ位のスピードで上の音に上がっていくのかを合奏で試して場面に合う奏法を見つけられると良いですね。
4小節目からのTimp.とS.D.のリズムはこの曲の中心となる大事なリズムです。軽めの音色で、「A」に向かうフレーズを感じましょう。二つの8分音符が並んだ間(3拍目と4拍目の間、6拍目と次の1拍目の間)が詰まってしまうと忙しいリズムに聞こえてしまいます。「A」から出てくる「あんたがたどこさ」の主題を想像して、歌うようにリズムが作れると良いですね。
「A」
ここで主題の全体像が現れます。打楽器は存在感を出しつつも主題を消さないように音量に注意です。
Bongosは高めのチューニングで存在感を出したいですね。ただ、張りすぎて音が散らないように、スティックで叩いた時に楽器の音がまとまる高さ(楽器が鳴る音域)を探しましょう。B.D.とCym.は見た目とても単純なリズムですが、全て同じ音量、音色になってしまうと平坦な音楽になってしまいます。それぞれのバンドのメロディーの歌い方や低音グループの動きに合わせて一発一発の音量、音色(音の重さ、スピード等)を工夫しましょう。この曲のB.D.は決め所以外では少し軽めの音色が良いのかなと思いますが、ただ軽いマレット(ビーター)を選ぶのではなく、しっかり鳴らせるマレットを選んで重さをかけすぎないよう小気味よく演奏する方が良いと思います。左手でのミュートを上手に使いたいですね。6小節目のTimp.は周りの和声の変化をよく聞いて音色を作りましょう。「B」5小節前からのW.BlocksとBongosはメロディーのフレーズに合わせて低い音の方に重みを感じて演奏しましょう。「B」1小節前のS.Cym.のスティックでのロールは、クローズドロールでもシングルストロークロールでもどちらでも良いと思いますが、クレッシェンドの響きを自然に作れるほうを選びましょう。使用する楽器とスティックとの相性にもよると思います。
「B」
1小節前の導入をきっかけに曲としては初めての ffです。充分に楽器を鳴らしましょう。大きなストロークでのびのびと演奏して欲しいです。
S.D.、3小節目の8分で数えた2拍目からsffzまで、そこまでとは違うキャラクターが作れると素敵ですね。Tp.等の動きを意識して。ここのTimp.とS.D.はそれぞれどこでどの動きと一緒の動きなのかをスコアをみて確認しましょう。
「C」
B.D.の4小節目のような動きのあるところは少し強調したいですね。S.D.のrimはスティックのどの部分を当てるか研究してください。一般的にはスティックの先のほうが軽くて高い音、手元のほうが重くて低い音になりやすいです。遠くで音が散らないでリズムがしっかり聞こえる場所を選びましょう。Timp.solo、スピードの速い音は欲しいですが音程や音楽の流れを壊さないように注意しましょう。
「D」
ここから音楽が柔らかくなります。音楽の横の流れを感じながらリズムを作っていきましょう。S.D.は長いフレーズを感じて滑らかに演奏できると良いですね。
「E」
B.D.、「E」の1小節前は音の長さ、重さをしっかり感じて、逆にEに入ってからは軽く前向きにバンドを引っ張っていけると良いですね。
Glock.にアーティキュレーションが細かくついていますね。各バンドの歌い方の違いがとても楽しみな箇所です。テヌートとスラーの変化、フレーズのどこに重さをおくか、それぞれのバンドの解釈を客席に伝えて欲しいです。
「F」
S.Cym.とTam-tamは掛け合いになっていますね。音量、音の立ち上がりを揃えて2つの楽器で一つの線を見せたいですね。
「G」
「G」直前のS.D.のトレモロはぎりぎりまで、B.D.につなげる意識を持ちましょう。B.D.は「F」から続くフレーズの最後の音です。しっかり決められると良いですね。S.D.とB.D.はGの3、4小節目に出てくる8分音符2つが詰まらないように注意しましょう。そのあとに出てくるXylo.も同様です。Timp.のsoloは次の小節につなげる意識をもって演奏しましょう。メロディーの一部です。
「H」
「H」3小節前から中間部に入っていきます。タイミングも難しくなりますが、音色、特に音のスピードに注意をして曲作りが出来ると良いですね。
ここから何回かTam-tamとS.Cym.に楽器をこする指示が出てきます。楽器のどこをどんなマレットでどれくらいのスピードでこするのか、色々と試して欲しいです。鳴らすタイミングですが、大まかに分けて2つのパターンがあります。一つは拍の頭と同時に素早く擦る方法でシャンと鋭めな音がなります。もう一つは拍より少し早めに擦りはじめて拍頭に向かってスピードを上げる方法。こちらは擦るスピードにもよりますが、シュワンというやや柔らかい響きが出せます。場面に寄って使い分けられると良いですね。「H」4小節目のGlock.は一人の動きですね。4拍目に向かって柔らかく滑らかに、音程がきれいに出るマレットを選びたいですね。
「I」
これはバンド全体の事ですが、「I」からは低音グループとPicc.、Glock.の動きにメロディーが乗る形が作れると良いですね。Glock.は16分一音一音の音の長さを感じながら柔らかく演奏しましょう。休符を強く感じすぎて流れが止まらないように注意してください。その他の楽器は力まずにGlock.の流れに乗れると良いですね。音とリズムが硬くならないように、腕のスピードをテンポに合わせてゆったりと使えると良いですね。
「J」は遠くから聞こえてくる打楽器アンサンブルの上にメロディーが乗ってきます。pでも音の芯をしっかり作れるマレットを選びましょう。3小節目のGlock.は遠くまで響く印象的な音を作りたいですね。後から入ってくるBongosとTimp.はリズムや入るタイミングを点でとらえないで、流れに自然に乗りましょう。
「L」
ここのBongosとW.Blocksも、ただ入る瞬間を狙おうとするとリズムが詰まったり、音が鋭くなりすぎたりしてしまいます。バスーン、バスクラリネットの動きを一緒に歌いながら流れに乗りたいですね。
「N」
最後のffはまだ続きそうな落ち着いたテーマを断ち切るように、緊張感のある引き締まった音で締めくくりたいですね。
全体に音数が多く、どのパートも高いテクニックが要求されると思いますが、リズムを弾く事に必死になって音楽の流れ、音色を見失わないように気を付けて練習して欲しいです。スコアをよく読んで、自分のパートに求められている役割を見つけられると良いですね。幸いこの曲は皆さんもよく知っているメロディーが使われています。メロディーを歌いながら、イメージを持って楽しく練習できるのではないでしょうか。それぞれの個性が光る「あんたがたどこさ」を期待しています。